Close to ~祈りの丘~

想いのかけら -Close to-(リンク先はPS2版サイト)
Dreamcast版
2005/03/31 記
 KID様のサイトを見てまず驚くのは、ショコラの髪型がロングになっている事。どうやらPS2版でデザイン変更されたようだ。個人的趣味で言えば、元々のデザインであるショートカットよりも、新デザインであるポニーテールの方が好みだ。とはいえ、水泳部でロングヘアって、やっぱ無理がないか? まぁ、それは兎も角。


 KID伝統をすっかり忘れていたのでOP順ではなく、適当な順番でクリア。総プレイ時間は約25時間、と言ったところだろうか。総プレイ時間のカウントが機能として存在していないので正確なところは解らないが、一日約6時間×4日なので妥当な数字だろう。


 まずはシステム面から。
 さすがに2001年発売、KID Dreamcast作品の3本目だけあって、まだまだ洗練されたシステムとは言い難い。とはいえ、基本的な機能は既に一通りそろっている。既読、未読判定、オートモード、スキップモード、読み返し。さらに、Rボタンでカーソルが移動し、片手で操作ができる、という便利さも既にあり、この手のゲームに必要な、おおよその機能は実装されている。

 とはいえ、前述どおり、矢張り洗練度が足りないのは確か。読み返しでは、「内容は表示されるが誰のセリフかは表示されない」「音声再生が出来ない」等が不満点だし、「既読、未読、既選択、未選択の色分けが行われていない」のも減点、更に「入力待ち状態にならないとメッセージウィンドウが消せない」という辺りも気になった。後は「シナリオタイトル表示がない」「シナリオ既読率が表示されない」「総プレイ時間が表示されない」「クリア後の途中開始が存在しない」「セーブ時のメッセージ内容が表示されない」位か。また、演出面でも立ち絵のアニメーションが無い、等、少々、弱い。

 とはいえ、上記の欠点、後々のシステムと比べて、であり、実は後に発売されるMy Merry Mayでは、全て実装されている。しかも、その二作の発売日の差は僅か一年。これだけのシステムの洗練を、僅か一年で思いつき、且つ、実装してしまった門松 民哉氏が属するチームというのは、本当に優秀だと思う。まぁ、今となってはKID社内にいるのかどうかすら解らないが……。


 それは兎も角、シナリオ面。

 正直、プロローグでの遊那さんのイカれた発言が、このゲームの敷居を遙かに高くしていると思う。詳細は以下に譲るが、最初に出てくるヒロインが自分のカメラに「山田くん」と名付け当たり前のようにその名称を使っていたり、機嫌の悪いときは犬のまねを、機嫌の良い時は猫のまねをして主人公に甘えている様を見せつけられたりしても、「お脳がユルい娘なんだな」「怖いな」という印象しか与えられず、場合によってはここで電源を切り、二度とゲームを立ち上げないユーザが出てきたとしても、全然、不思議ではない内容だ。実際、僕自身もそのあまりの毒電波ッぷりに、一年近くプレイするのを止めていた位だ。

 とはいえ、そこを乗り越え最後まで味わってしまうと、そんなことは些細な事に思えてくるようになる。確かに遊那さんの毒電波は強力だが、しばらくつきあっていれば慣れ等れないことも無く、また、シナリオ自体も満足のいく内容だったので、気にならなくなるのだ。それに、その毒電波さえ除けば、遊那さんは非常に正当なヒロインであることも、高評価に繋がっている。まぁ、その除いた部分が評価を大きく分けるポイントでもあるのだが……。


 それは兎も角、以下、キャラ毎、クリア順に記述。基本的なお話は、「恋人である柏木 遊那とのデート中、遊那を助けるために交通事故にあった主人公、元樹は重体を追って生死の境をさまようことに。さらに体から幽体が離れ(幽体離脱)色々な場所を行き来出来るようにはなったが、幽体であるが故に誰も元樹の事を気がついてもくれない。元樹が助かるには体が死んでしまう前に肉体に戻らなければならないのだが、そのためには元樹の事を心の底から生きていて欲しいと願ってくれる人が必要だった。しかし、それを一番願ってくれるはずだった恋人、遊那は事故のショックから元樹の記憶を全て失ってしまっていた……」ってな案配。


 で、最初は汐見 翔子。

 主人公の同級生で水泳部。いつも明るく、仲間内のリーダで、性別を感じさせないサバサバとした性格。けれど妙に乙女チックな内面を持ち合わせている。唯一、普通に主人公のお見舞いに来てくれたり、復活のためにあれこれ奔走までしてくれる、実は一番普通で友達思いな人。遊那の記憶を取り戻させようとあれこれ活躍はしてくれるのだが、彼女を選ぶと言うことは、つまり遊那とは別れる、という事だ。翔子のラストシナリオは、まさにその展開となっている。

 その、遊那と別れ翔子とくっつくまでの流れは、それなりに楽しいことは楽しいが、けれど、あからさまに主人公の性格が変わっているような気がして微妙。元樹、そんなに自己欺瞞が大好きなヤツだったか? そう言う印象だ。つか、プロローグからゲーム中、そしてエンディング直前に至るまで、遊那さんへの思いであふれかえっていたというのに、あっさり翔子になびくあたり、少々興ざめだ。ただし、『それなりに楽しい』と書いたとおり、そのシーンだけ取り出してみると、シチュエーションといい、演出といい、結構楽しめるのも事実。まぁ、修羅場にならなかったのは残念だが、遊那の性格じゃあなぁ……。それを乗り越えて修羅場になったときのインパクトは大きいとは思うが。


 次、橘 小雪。

 幽体になった主人公が見える事によって散々つきまとわれてしまう可哀想な人。けれど社会性は皆無であるため、最初の印象は「イヤな奴」以外、何者でもない。しかし、話が進むと主人公と仲良くなるわ甘えるわで、かなり楽しくなってくる。

 そんな物語の行き着く先は、感情的には結ばれるが、現実的には結ばれない、という、(恐らく)今では考えられないエンディングだ。主人公、心臓の悪い小雪に自らの心臓を譲り、死んでしまうのだ。確かにその行為は小雪を生かし、その結果、気持ちを通じ合わせられたのだが、しかし、あれだけ「残される者の辛さ」を味わった小雪は、果たしてそれに耐えられるのだろうか? 或いは、それに慣れてしまっているのかもしれないが、けれど、良い終わらせ方では無いと僕は感じる。愛する彼女に命そのものを与え、そして自らは消えていく、というのは、物語としては美しいが、結局、小雪が一人、取り残されている、という状況自体は変わらないのだ。そして、それが変わる道筋すら見えていない。果たして、彼女は世界に対して心を開くだろうか? それとも、主人公と会った頃のように、人を寄せ付けない壁を保ち続けるのだろうか? もしかしたら、主人公との思い出だけで一生を過ごせるかもしれないが、人と触れあう素晴らしさを知った彼女が、このまま一生を一人で過ごすとは思えない。そして、また再び、深く、深く、傷ついたときに、果たして彼女は元樹を怨まずにいられるのだろうか……?

 かといって、その上で更に主人公が生き返っても安易すぎるが。つか、個人的にはBAD ENDの方である小雪の方が死ぬ、という方が好みだ。どちらかといえば、小雪の方がこの世からははみ出している存在だから、その方が納得がいきやすい。或いは、もっと安易に小雪はまだまだ生き残り、そして小雪のために医学を目指す主人公、という展開でも良い。いや、二人とも死ぬ、でも良いけどさ。


 で、やっと柏木 遊那。本作ヒロイン。

 14年という長い歳月を主人公の横で過ごし、主人公の愛を一心に受け取り、そしてまた、主人公の事を一心に愛している、一分の隙もないくらい、完璧な幼なじみ。ただし、お脳の方はかなりユルく、その言動は時としてプレイヤーの理解を超え、どちらかといえば恐怖の対象になる場合もある。つか、絶対ゆーなさんは打越鋼太郎氏が書いていると思う。あの人以外に、こんなボンクラでトンチキな娘さんを書けるライターなど、僕は知らない。ただ、「今月今夜のこの月も、おまえの涙で曇らせてやろう……」等と、微妙に時代劇好きなセリフを吐く辺りは違うかもしれないが……いや、そう思うだけで正確なところは解らないし、それでゆーなさんのボンクラッぷりが覆されるわけでもないが。見た目はちゃんと美少女しているのにねぇ。しかもピンク主体のカワイイ女の子然としたデザインの。

 そんなボンクラゆーなさんのお脳がユルい会話を乗り越えてなんとかシナリオを進めていくと、思っていた以上にハードな展開が待ち受けている。人生の大部分をしめる「当たり前」を目の前で、しかも自分が原因を作ってしまうという状況で失ってしまう遊那は、ショックのあまり、その記憶すら封印してしまう。ただ「大切な何か」があった、という雰囲気だけを残して。

 やがて主人公の行動により、遊那は記憶を取り戻そうとするのだが、そのあまりの辛さに激しい拒絶反応を示してしまう。あれだけ脳天気なゆーなさんが、あれだけ苦しんでいる、というギャップは、矢張り、衝撃的だ。そして遊那は記憶を取り戻すのだが、その後の展開も暗く、重い。自分が原因で主人公が生死の間をさまよっていること、そして、そのことを忘れてしまっていたこと。二つの罪が遊那の心を苛む。食事すら取らず、自分のもてる時間の全てを主人公のそばで過ごすことに費やす遊那。これは、主人公から遊那に向けられた思いを延々、書き重ねてきたからこそ心に響くシーンだ。それが無ければ魅力は半減以下だろう。

 と、ここまでは良かったんだが、その後の「天使の羽」での演出がいまいち。主人公と遊那の気持ちを延々、きっちり、真正面から書いてきたのだから、そのままストレートに演出してくれた方が良かったのだが……。シーンとしては美しいが、それすなわち感動的である、では無いのだ。これは美しくし過ぎだと思う。とはいえ、僕にはそう感じられた、という事であって、実際は良い演出なのかもしれない。感動する心が無ければ、そこに運命は訪れないのだから。僕の問題なのかもしれない。とはいえ、もうちょっと余韻を持たせてくれても良いとは思う。二人が抱き合ってキスをするためだけに、あれだけを費やしたのだから。


 そして咲坂 麻衣。本作の真ヒロイン。

 シナリオ中に存在する、ありとあらゆる複線が、彼女のためだけに紡ぎ上げられている。事故原因。霊感。心臓病。死んでしまった母親と姉。天使の羽。約束。姫。そして、神様。二人が結ばれた瞬間に二人の命がついえる、というシチュエーションは、究極のハッピーエンドではあるが、けれど、妄想が大好きな僕は、その後を想起できなくて、少し物足りなく感じてしまう。勿論、命がついえるというシーンに「神様を探しに行こう」という約束を絡めた事により、結ばれて天に召されるという状況以上のものを作り出している事に、本当に凄いな、と感嘆したのだが、それと同時に、これがやりたかったんだろうな、とも思った。「神様を見つけに行く方法」を。彼女のために神様を見つける方法を。

 そこに行き着くまでの麻衣は、明るくて、楽しくて、頼りになって、登場キャラクタの中で、最もまともで、最も好感の持てるキャラクタだ。お脳のユルいゆーなさんや、いまいち出番の少ない翔子、冷たいと言うよりは人間性に憎しみがにじみ出ている小雪に比べて、麻衣は遙かに友好的で、遙かに普通の美少女キャラだ。麻衣が真ヒロインでなくて、一体誰が真ヒロインだというのだろうか? そして、結局、この物語は、全てが麻衣に捧げられているのだ。主人公ですらなく、麻衣を救済するためだけに全てが作られているのだ。つか、やっぱ「神様を見つけに行こうと約束した女の子と、本当に神様を見つけにいく話」が最初の企画で、それが発端で一番やりたいことだったと思う。少なくとも、僕はそう感じたのだ。麻衣のエンディングを見た瞬間に……。



 この「Close to」、心に響くか? と聞かれれば、あまり響かない、というのが答えだ。実のところ、そんなに熱い話でもない。けれど、麻衣ENDにたどり着いたときの気持ちよさは格別で、そのためだけにコンプリートする価値のある作品だ。またさらに、PS2版には「悪霊編」なる追加シナリオもあるようで、入手性と翔子のキャラデ変更という点からも、そちらをオススメする。システムがどうなっているかは解らないし、状況だけ考えると、あまり期待も出来ないが。
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