虎よ、虎よ!

Amazon.co.jp: 本: 虎よ、虎よ!
2004/06/11 記
 傑作。全編に渡る熱気に、一気に引き込まれる。

 ジョウント(恐ろしく限定された瞬間移動)が一般的となり、超長距離以外の交通機器がほとんど無くなってしまった未来世界。人類はいくつかの惑星に移住をはたし、そして地球でもまた、その繁栄を謳歌していた時代。けれども、そこには戦争の影がちらつき始めていた。

 長い間、つねに死と向き合ってきた、けれども平凡とされている男、ガリー・フォイル。彼の乗っていた宇宙船は攻撃を受け、ただ一人生き残ったのだ。そして、命がけで空気と食料を確保しながら、半年もの長い間、助けが来るのを待ち続けていた。そこにたまたま通りかかった宇宙船『ヴォーガ』号は、当然フォイルを見つけるが、けれども彼を助けることなく見捨てて、過ぎ去っていく。半年という期間を耐え、助かったと幸福感に満ちた彼の心は、僅か5秒で静まりかえってしまった。
 ……そしてわき上がる、怒り、憤怒! 大声で復讐を誓うフォイルの、そのおぞましい物語がいま、始まったのだ。

 と言う風に始まったフォイルの復讐劇は止まることなく、すさまじいエネルギーを発散しながら突き進んでいく。兎も角、話が濃いことこの上ない。誰も彼もが葛藤し、恐れ、戦い、傲慢で、力強くえがかれている。それも、ただ一人、フォイルのためだけに。彼の復讐劇の為だけに。フォイルがその復讐に注ぎ込むエネルギーはそれほど大きく、そしてその対象も、それだけのことをしなければ打ち倒せないほどに強力だ。

 その限りなく困難な道を、ただ復讐する、という一念だけで走り抜けるフォイル。時に捕まり幽閉され、時には莫大な資産を背景に敵に接近する。その中で時折姿を見せる、炎に包まれた自分そっくりの男。節目節目に現れる炎の男に、フォイルは導きを感じる。あれこそが我が復讐の象徴だ、と言わんばかりに。

 けれども、そのフォイル自身もその当初から追われる身となっていた。彼の乗っていた宇宙船『ノーマッド』号には"パイア"が詰まれていたからだ。戦争を終結させる鍵、途方もない価値のあるもの。パイア。やがてフォイルは(一緒に詰まれていた大量のプラチナと共に)パイア自身を手に入れ、そしてそのことがフォイルをより大きな渦に巻き込むことになっていく。

 やがて復讐の相手を突き止めるフォイル。けれども事態はそれだけに収まらず、緊張の高まった内惑星と外衛星同盟が始めた戦争に巻き込まれてしまう。その勝敗の鍵を握る"パイア"を巡って。そしてフォイル自身を巡って。フォイルは、未だかつて人類が果たし得なかった、宇宙空間における超長距離のジョウントを果たした唯一の人間だったのだ。そして、そのためにヴォーガに出会い、この復讐劇の幕があがったのだ。

 クライマックス。超長距離ジョウントすら超えて、その能力を発揮し始めるフォイル。彼は空間どころか、時間ですらジョウントしてのけたのだ。そう、あの炎の男は、フォイル自身だったのだ。そして世界に問いかけるフォイル。その問いに、果たしてどのような答えが返ってくるのだろうか。
Back