Forest

Forest
Windows版
2004/11/03 記
 Liarsoft、第11番目の作品。腐り姫以来のLiar作品だ。オフィシャルサイトにも書かれているが、結末は一つで、けれどそれはいまいちだったりする。ただし、そこに行き着くまでの物語は、楽しげで、悲しげで、残酷で、面白い。ただ、結末だけが、失速している。おしいことに。

 まずはシステム。とはいっても、システムは普通の三行ADVだ。これといって特筆すべき項目はない。特筆すべきは、その演出だ。

 作中、聞こえてくる音声と、表示されるテキストが、全く別の物であることが多々ある。それは、主人公には聞こえないセリフ、とか、日本語以外の言葉、とか、ましてや、バグ、などではなく、『呼びかけと応答』だったりする。呼びかけが音声、応答がテキスト。つまり、聞こえてくる音声と、表示されるテキストは、別個のキャラクタが発するセリフなのだ。

 最初、その演出にはとまどう。音声とテキストが区切りなく表示されるからだ。音声が聞こえてからクリック待ち、ではなく、音声が聞こえ、それが終わる前にテキストが表示され、そこで初めてクリック待ち、となる。つまり、音声を聞き終え、テキストを読み終わるまでクリック(先送り)してはいけないのだ。多くのゲームでは、通常、これは二つに分離(二回クリック)されている事から、おそらく、ゲーム慣れしている人であればあるほど、最初はとまどうのではないだろうか。

 けれど、これも慣れてくると面白くなってくる。僕は音声も全部聞く派(テキスト表示された内容が解れば音声を飛ばす派、音声は聞かない派、というのもいる)だが、別に真剣に聞いているわけではなく、BGM的な効き方をしている場合が多い。たまに、演出上、或いは、声優の演技上、聞きたい、と思った部分だけ聞く体勢になる程度、基本的には聞き流している。

 しかし、それは、聞こえてくる音声がテキストとしても表示されているから、文章を読む方が圧倒的に早いから出来る事だ。このForestの様に、音声がテキストとして表示されない場合、ちゃんと聞き取らなければならなくなる。マジメに耳を傾けなければ物語が解らなくなってしまう。

 だから、最初はとまどってしまう。一人一人のセリフ(音声、文章に限らず)を、区切って聞けない、というのもあるが、視覚と聴覚、両方に注意していなければならないからだ。これは、ADVゲームとしては、あまりない神経の使い方だ。れど、慣れてくると面白くなってくる。分散しつつも、いつもより集中している分、ゲームへの埋没度が高くなっているからだ。とはいえ、声優陣の演技やBGMの質が低ければ、逆にうっと惜しいだけだっただろう。勿論、本作の質は高い。つか、北都南さんとか、一色ヒカルさんとか遭遇率が高い。時点で青山ゆかりさんってところか。全然関係ない話だが。

 そしてシナリオ。舞台は新宿。期間は半年。登場キャラクタは5+1人、そしてけーこ様。

 冒頭、登場キャラクタの5人が一同に介するシーンから始まる。それは唐突に始まり、また、上記のような演出的な理由で取っつきにくい上に、冒頭部としては説明不足で、むしろ面食らうようなシーンだ。次々に呼ばれ、現れるキャラクタ達は、森と化した新宿、アルタでティーパーティを始めることになる。アリスの物語の、マッドティーパーティだ。

 そのパーティが『リドル』と呼ばれる森からの挑戦、5人にはそれぞれ『ギフト』と呼ばれる力が備わっていて、且つ、ギフトは交換可能、とだけ理由がなされ、そのティーパーティは終わってしまう。なにがなんだか、良く解らないままに。

 唖然としつつも、目の前に現れた葉、つまり選択肢を選ぶことを迫られる。最初、その葉の意味が解らず、説明書に目を通したくらいだ。その程度には唐突で、良く解らない。

 また、それらの葉には数字がついているのだが、やっぱり、その意味も解らないままに、兎も角、選択し、進めていくことになる。が、後から、その葉についている数字は、日付であることを理解する。だから、始まりは4月だ。

 その葉、一つ一つにお話が結びつけられている。緑の葉には語り手と聞き手のお話が、灰色の葉には現実のお話が、そして、赤い葉には『リドル』が。一度選んだ葉にはタイトルが付くが、シナリオの構成上、そのタイトルを目にすることは、ほとんど無い。

 葉の多くは緑の葉だ。語り手と聞き手の物語。二人の間に交わされたお話のお話。けれどそのお話は短く区切られている。しかしそれらは森の生い立ちに深く関わっているお話だ。一見、関係ないように見えるそのお話とリドルは、やがて深く結びついていく。

 リドルには出典がある。アリス、ナルニア、ウォーターシップダウン、宝島、ピーターパン、ガリバー旅行記、その他色々。けれど、リドル自体は命がけのゲームで、しかも、残酷だ。登場キャラクタの一人、黛はリドルに叩きのめされ、森に取り込まれてしまう。

 森で人間なのは5人と、アリスだけだ。リドルの姫。もう一人の聞き手。アリスは言う。「さあ、お話を聞かせて?」
 それ以外の人達は人間ではない。猫であったり、カラスであったり、借り暮らし、地下の人、なんてのもある。海賊、は微妙だが、きっと森から見れば人の範疇ではないのだろう。ただし、彼らも現実での姿を持っている。5人やアリスと同じように。彼らもまた、森で死ねば、現実でも死んでしまうのだ。

 そして、彼らは森に、リドルに翻弄されながら過ごしていく。いつ終わるともしれないリドル。いつまでもありつづける森。けれど、もちろん終わりは訪れる。あの、酷い終わりが。

 外の外を語る必要があったのだろうか? アマモリは砕け散る必要が、果たしてあったのだろうか? ラスト、老人灰流と少女アマモリが抱き合うシーンは感動的ではあるが、けれどまるで感情移入できない。あまりにとってつけたような結末すぎる。灰流の嫌いな予定調和、なんて地平にすらたどり着いていない。本当にとってつけたような、つながりの感じられない、終わりような何か、としか感じられない。そして、そうなった理由は、単に性急すぎたから、としか思えない。もっと丁寧に、アマモリと灰流の葛藤を描いても良かったんじゃないだろうか? 伽子という存在を。そして、アマモリが言うところの「また繰り返している」、の意味を。

 最初の取っつきにくさ、そしてあの終わり方さえ無ければ、中盤の盛り上がり方、演出、内容、共々、オススメと言っても言い位の出来なのだが……。
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