必殺からくり人

テレビ東京放送版(2004/08/27~2004/09/11 放送)
 第1話「鼠小僧に死化粧をどうぞ」
 第2話「津軽じょんがらに涙をどうぞ」
 第3話「賭けるなら女房をどうぞ」
 第4話「息子には花嫁をどうぞ」
 第5話「粗大ゴミは闇夜にどうぞ」
 第6話「秘めごとは白い素肌にどうぞ」
 第7話「佐渡からお中元をどうぞ」
 第8話「私ハ待ッテル一報ドウゾ」
 第9話「食えなければ江戸へどうぞ」
 第10話「お上から賞金をどうぞ」
 第11話(未放送)
 第12話「鳩に豆鉄砲をどうぞ」
 第13話「終わりに殺陣をどうぞ」

2004/11/09 記
第1話「鼠小僧に死化粧をどうぞ」

 冒頭、にぎわう現在の町並み、というシーンから始まって面食らう。これ、時代劇じゃないのか? と思っていると、その町中を緒方拳が走り回り、しかもインタビューを受けている、という流れに、益々「変だ」という思いが強まる。けれど、緒方拳のセリフが一気に話を元に戻す。「鼠小僧がここを通るって聞いたんだけど」そして、すぐに鼠小僧の、市中引き回しシーンが始まる。けれど、インタビュアーのセリフもそのままだ。

 その後、やっと時代劇風の風景になる。小舟の上に緒方拳、名を夢屋時次郎、職業は名前の通り「夢屋」。枕を売り、眠りを売る、という商売だ。当時の江戸では不眠症を訴える人が多かったらしい、とのナレーションが入り、このような商売が成り立っていることを説明する。世界有数の都市と言われた江戸に不眠症、というのは現在にも通じる物があってなかなか面白い。

 その時次郎が、ひょんなことから鼠小僧と知り合い、鼠小僧を巡る陰謀に関わっていくのだが、その陰謀自体もさることながら、第1話から、からくり人業者(?)同士の確執があったり、主人公側のからくり人達の元締めが殺されたりと、裏稼業界自体も血なまぐさい事になっている。また、鼠小僧の方も最後にはあっさり刺殺されてしまい、また、その鼠小僧の遺産とも言うべき覚え書きも、鼠小僧の飼っていた鼠にボロボロにされてしまい、それを当てにしていたからくり人達は骨折り損のくたびれもうけ、初っ端から濃いドラマが展開されている。
第2話「津軽じょんがらに涙をどうぞ」

 今度もまた、冒頭は現在の映像。殺されてしまった元締めの後を次いだ仇吉役の、山田五十鈴さんの口から津軽三味線について語られる。その語りの間に移される映像が、恐ろしい姿をした悲哀の女達の絵。

 それを受けて、物語の冒頭、仇吉の三味線に若い娘が演奏を合わせてくる、というシーンが入る。それに驚きながらも最後まで演奏仕切った仇吉は、その合わせ方に「まるで匕首をつきつけてくるようだ」と感想を漏らす。そして、その娘は直後、その三味線を聞いていた津軽藩の侍達にドスで斬りつけるのだが、軽くあしらわれた上に、川に落とされてしまう。

 やがて、からくり人達に助けられたその娘は、苦労して江戸に来たこと、母親の仇を捜していることを話し始める。その話に泣き出してしまうとんぼ、渋い顔をするからくり人達。そこに天平、時次郎の表稼業から入ってきた情報から、その娘の仇は大蔵屋であることがわかり、やがて、からくり人達の手助けをえて、娘は仇を取ることになるのだが……。

 この話の途中、金貸し大蔵屋の「千両運び」というシーンがある。文字通り、千両箱を運ぶシーンだ。そして、その千両箱を4人の凄腕用心棒が守っており、橋の上で、そこに襲いかかってくる6人の浪人を、その用心棒があっという間に倒してしまうシーンがあるのだが、このシーンの、走り寄ってくる浪人達の躍動感と、悠々と歩いている用心棒達の制動感の対比が面白い。
第3話「賭けるなら女房をどうぞ」

 これまた冒頭は現在の競馬場。古今東西、博打で身を持ち崩した男達は数知れない、といった風のナレーションがかぶり、一人の太った男が、馬のように駆けていくシーンが映し出される。

 その男こそ、博打にはまり、挙げ句の果てに女房まで博打で失った男、魚屋伝次だ。やがて伝次はヤクザにそそのかされ、米相場で一儲けをたくらむ備前屋の企み、農民一揆の片棒を担がされることになる。

 その方法が、奇跡の力を持った生き仏の僧侶。苦しむ農民達を救えと、夢枕にたたれた仏様がおっしゃった、という理由だ。もちろん、それはウソなのだけれど、ヤクザと一緒に仕組んだ八百長や、時次郎曰くの「一度限りのびっくり箱」もあって、農民達は伝次の事を信じ切ってしまう。

 けれど、所詮は偽の奇跡。時次郎に諭され、伝次は揺れ動くが最後には、自分を信じ慕ってくれる農民達を救おうと、一人、その身を挺して駆けていく。

 女房を救いたい、というただそれだけだった伝次の気持ちが、最後にはみんなを救いたい、という風に変わっていく様は、人間味にあふれている。そして、それをダシに備前屋を脅す仇吉姉さんは、溜飲を下げてくれるが、しかしもの悲しい。
第4話「息子には花嫁をどうぞ」

 地位も名誉も権力もある、由緒正しい旗本の跡取り息子がホモ侍だった、という話。けれど話はホモ侍の方ではなく、そのために跡継ぎが生まれない、という面を中心にして動いていく。

 冒頭、長屋住まいの夫婦の元から赤ん坊が盗まれる、という事件が起こる。その犯人はどう考えてもホモ侍の旗本家に逃げ込んでおり、その事を役所に訴え出るが、なんせ相手は旗本、相手にされないどころか、亭主の方は江戸払いとなってしまう。けれどあきらめきれない女房の方は方々手を尽くし、最後の望みとばかりにからくり人、仇吉姉さんの元にやってきたのだ。

 それもつかの間、その旗本家から葬式が出される。話を聞けば跡継ぎの赤ん坊が亡くなった、との事。半狂乱になってその葬列に駆け寄っていく母親だが、護衛侍に引きずられ、追い返されてしまう。

 やがて、それがホモ侍の母親の指示によって行われた誘拐であることが発覚する。そして、赤ん坊を殺したのは、旗本家の後妻であることも。夫からは見向きもされず、夫の母親からは子さえ産めば良い、とまるで人間扱いされない後妻は、あてがわれた赤ん坊につよいストレスを感じ、ノイローゼになっていたのだ。そして、その後妻も夫の母親の指示によって殺されてしまう。

 やがて、さらなる後妻を、とホモ侍とその母親は見合いをするが、そこにホモ侍の惚れた相手、夢三郎が現れる。けれど、夢三郎は天平に夢中で、その事に激しく嫉妬したホモ侍は、夢三郎を刺殺、そのことに絶望し、自らも自殺してしまう。

 劇中、夢三郎が「男の嫉妬はみっともない」と言う。確かにみっともないのだが、それ以上に子供に対する、旗本家と長屋住まい夫婦との温度差、切迫感に恐ろしさを感じる。誰一人として、報われない。
第5話「粗大ゴミは闇夜にどうぞ」

 江戸のゴミ回収業者の利権争い。けれど、ゴミ回収業者同士の争いではなく、その利権に食い込もう、というヤクザが暗躍する、という話。

 花火師天平が住み着いている、大江戸ゴミ処理施設、百万坪。そこで天平、とんぼは埋められていた死体を発見する。最初は無視していた天平だが、やがて気になって死体を掘り返してみる事に。けれど、死体は身ぐるみを剥がされ、どこの誰かは解らない。けれど、唯一、左足に残っていた足袋からどうやら半丸の主人ではないか、ということが判明する。

 そのことを知らせに天平は半丸に向かうが、そこの女将からは主人は健在、と追い返されてしまう。親切で調べたのに、と嫌悪感をあらわにする天平だが、それ以上はどうしようもない。

 けれど、そのことに興味を持った仇吉姉さん、へろ松を半丸の人夫として潜り込ませ、様子を探る。とはいえ、アホのへろ松、子守を押しつけられ、半丸の息子達とのんびり釣りをすることに。

 そこにヤクザの手先がやってきてへろ松をだまし、息子を誘拐していくのだが……。

 「お上になにかあったら上州8000人のヤクザが動く」「金儲けの面白さにとりつかれるのは、なにも男だけじゃない」等々、印象深いセリフがいくつか。金と利権とゴミ問題。今でも頭の痛い問題だ。
第6話「秘めごとは白い素肌にどうぞ」

 お上にたびたび弾圧されている彫り師の伊佐吉。その腕は、島帰りの時三郎の腕に彫り込まれた島送りの刺青を跡形もなく消してしまえるほどだ。けれど度重なるお上からの弾圧に、酔った勢いもあって伊佐吉はオランダに行きたい、などと言い出す。自分の彫り物を理解してくれる、やりたいことが出来る所に行きたい、と。

 そこに目をつけた長崎屋、日本地図を国外に持ち出したい(日本地図の国外持ち出しは当時、厳罰処分となっていた)オランダ人と組んで、女の肌に日本地図を彫り込んで欲しい、と伊佐吉に依頼する。日本に愛想をつかしている伊佐吉は当然、その依頼を受ける。やがてその彫り物は完成し、それを一世一代の大仕事、と誇る伊佐吉だったが、その身は口封じのために瀕死の傷を負っていた。

 弾圧される芸術家という図式が面白い。そのことを嘆き、国を出たい、と嘆くのもまた良い。そして殺されてしまうとはいえ、満足な仕事ができたと時次郎に誇らしく語るシーンは格好良く、けれど、もの悲しい。
第7話「佐渡からお中元をどうぞ」

 佐渡から運ばれてくる金塊を盗んでしまう、という話。そして、その方法が穴を掘って蔵に忍び込む、というのだからなんだか笑ってしまう。

 前半、延々と穴を掘りながら、佐渡での悲惨な労働状況が語られる。次々に死んでいく仲間達、不安になって大声を出していた、という穴の中での出来事、新入りは心細いから何度も大声を上げる、等々その状況は悲惨につきる。しかも、佐渡送りにされるのは、数年に一度の「大掃除」の時に、軽罪にも関わらず佐渡送りにされる男達。労働力確保の為の無慈悲なやり口なのだ。

 その佐渡からの金を盗み出す、というのが今回の仕事。もちろんその警備は厳重で、正面突破は出来ないので穴を掘って、というのが今回の方法だ。

 けれど穴掘りの途中、大きな岩に当たってしまい、回り道をすれば丸一日遅れてしまう、そうなれば間に合わない、ということになり、天平の花火によって岩を爆破する事になったのだが、いざ爆破してみると岩は崩れず、しかもその音の大きさにすぐ真横の、蔵のある本陣から凄い勢いで侍達が飛び出してきて「浅間が火を噴いたか!?」などと叫ぶ始末。どうしようも無くなってしまう。

 そんな窮地に天の助け、雨雲が空を覆うと、あっという間に雷雨となり、その雷にあわせて爆破することに。そうして気づかれることなく穴は完成し、見事金塊を手にすることになる。

 そんな風に動きの小さい穴掘りとうってかわって、終盤はその金塊を運ぶシーンのダイナミックさが目立つ。江戸まで一気に駆け抜けていく「お氷様」にくっついて、関所を一気に駆け抜けるのだ。その事をとがめる「お氷様」運搬役人にも悪びれることなく、賄賂を渡してニヤニヤしている時次郎が痛快だ。とはいえ、金を盗まれた一行がどうなったのかは描かれておらず、気になるところだ。
第8話「私ハ待ッテル一報ドウゾ」

 冒頭、行方知れずになった息子が10年ぶりに帰ってきた、と喜ぶ越後屋一家。けれど仇吉姉さんに三味線を習っているおせんちゃんは、帰ってきたという息子への違和感がどうしてもぬぐえない。もちろん、おせんちゃんも行方不明となっていた幼なじみが帰ってきた、ということで喜んではいるのだが、本当にそれが幼なじみの彦市さんなのか、疑問なのだ。そのことをとんぼにもらすおせん。

 しかし、その翌日、おせんは水死体として見つかり、おせんと仲の良かったとんぼは、彦市が何か知っているのではないかと思い詰め、本人に「あなたは本当に彦ちゃんなの?」と詰め寄ってしまう。しかして、その答えを返してきたのは越後屋の女将。つまり彦市の母親だ。あの子は私の息子です、と言い切る女将に、仇吉姉さんは訪ねてみる。「もし、仮にあなたの息子じゃなかったら、どうするんですか?」 女将は表情を揺らすが、それでも私たちの息子です。新しく授かった息子です、と言い切る。

 しかし、その後、越後屋の主人、女将共々殺されてしまい、それは彦市の偽物を使った店の乗っ取り行為であったことが解る。その重圧に耐えきれない偽彦市は何度も逃げだそうとするが、そのたびに乗っ取りをたくらむ大人達に連れ戻され、どうしようもない。やがてからくり人達が動き出し、彼らは殺されてしまうのだが、その中の、赤ん坊を背負った女を、橋の上で藤兵ヱが刺殺した瞬間、その場に居合わせた偽彦市が「おっかあ!」と叫びを上げる。驚いた藤兵ヱは震える声で「あんたのおっかさんなのかい?」と聞くが、偽彦市は答えない。

 偽彦市は母親の背中から赤ん坊を抱き上げると、その場を離れようとする。そんな偽彦市に藤兵ヱは名乗り、困ったことがあったら頼ってこい、と声をかけるが母親を殺したヤツの世話になんかなるか!と偽彦市は走り去ってしまう。

 因果な話だ。結局また、誰一人、報われない。
第9話「食えなければ江戸へどうぞ」

 どんどん人口の増えていく江戸の町。人が増えれば活気が出るが、けれど反面、治安は悪くなる。それでも江戸に人が集まるのは田舎で百姓業をやっていても食えないからだ。日照り、大水と、自然災害が毎年のように襲いかかり、さんさんたる有様らしい。

 治安悪化に手を焼いたお上は「人返し政策」を打ち出し、江戸にやってきた人々を強制的に返すことにした。そんな中、人返しにあった一人の男が、同じ村に住んでいる幼なじみの女が帰ってこない、とからくり人達のところにやってきた。幼なじみの女もまた、人返しにあったのだ。

 人返しにあった者が、また江戸に戻っていることが解った場合、死罪にもなるという危険を冒してまで男が江戸に戻ってきた理由は、女への気持ちであった。しかし、女が見つかったのは女郎屋。男はその理由を問いただすが女は答えず、やがてやってきた用心棒達に叩き返されてしまう。

 やがて、からくり人達の調べによって、人返しによって返される女達をだまし、女郎屋に売り飛ばす悪党が居ることが解るのだが、ヤツらが始末されるまで、男は女の元に何度も通い、一緒に帰ろう、と何度も説得を試みる。けれど、結局、帰っても食えない、飢えるくらいならここで女郎として生きていた方がマシだ、と男を拒絶する。

 結局、最後に彼らは田舎に帰っていくのだが、果たして生活できているのだろうか?
第10話「お上から賞金をどうぞ」

 隠れキリシタンを捕まえた者には20両の賞金を出す、という話から細工職人、岡っ引き、絵師、の三人が証拠をでっち上げて無関係な親子をダシに賞金を頂こう、としてからくり人に始末される話。

 この話の冒頭、へろ松が白玉の屋台をやっているのだが、これ以外にもそば、そうめん、金魚、と色々な屋台を引いている。しかも、そのどれもが、まるで客がついていなさそうなあたり、へろ松には商才はなさそうだ。

 そして結局、誰も賞金を得ることのないまま、話は終わる。
第12話「鳩に豆鉄砲をどうぞ」

 しばらく出番の無かった時次郎の話。第8話、第10話では全く出番が無く、第9話でも、ちょっとしか出ていなかった時次郎だが、この第12話では主人公となっている。

 朝、とんぼが食事の支度をしていると、窓に手紙が挟まれる。時次郎からの手紙だ。その内容は、皆様とは今後一切関わりなし、なお、13日の夜と、15日の昼には、人目のつくところに居ますよう、という内容だった。あつまったからくり人の面々は時次郎がなにかでかいことをやろうとしているのでは、と話し合うが、それがなんなのかは誰一人解らない。天平が「水くせえよ……」と寂しげに呟く。けれども、兎も角、時さんを探そう、とからくり人たちは動き出す。が、13日は明日、もう残された時間は無いに等しかった。

 みんなの調べで、時次郎が天平のところから火薬を持っていったこと、職人に組み立て式の銃を作らせたこと、その銃に遠めがねをつけ、スナイプ出来る工夫をしたこと、なじみの女郎に見受け金を渡していたこと、その女郎のすがたは、時次郎の許嫁そっくりであった、等々が解るが、結局、時次郎の姿は見つからず、13日の夜を迎えてしまう。仕方なしに、時次郎の指示通り、人目につくところで夜を過ごすからくり人達。

 このときの、へろ松と天平のコンビが、面白い。飲み屋のテーブルの上で、へろ松が酔っぱらいに囲まれてストリップまがいの事をやっているのだ。そんなアホ騒ぎに目も向けず、渋い顔をして淡々と酒をあおる天平の姿が痛々しい。

 さらに、からくり人達の隠れ家、花乃屋では、時次郎のなじみな女郎が不安な気持ちから、「南妙法蓮華経」と何度も唱え初め、驚いて声をかけたとんぼも、そんな姿を見て、一緒になってお題目を唱え始める、というシーンがあるのだが、「南妙法連蓮華経」をお題目、第3話の「南無阿弥陀仏」というのを念仏、という風に、時代考証、というよりは宗旨による言い換えをきっちりこなしているところが面白い。

 やがて13日の夜が明け、実際に殺しが行われたことがからくり人達の耳に入ってくる。殺されたのは南町奉行所の同心で、蘭学者の弾圧に一枚かんでいた男であることが藤兵ヱの調べにより解る。その、蘭学者、という言葉に反応する女郎。昔、盲腸(?)をやられたときに、時次郎に蘭学者の医者に連れて行ってもらい、助けてもらったことがあるのだ。

 そのことから、仇吉達は時次郎のねらいが、鳥居耀蔵達、蘭学者弾圧を行った幕府役人達であると結論づけるが、時は既に15日。塔の上に潜んだ時次郎は鳩と戯れながら只一人、ヤツらがやってくるのを待ちかまえていた。

 そして次々にやってくる幕府高官達。時次郎は銃を手にすると、歩いてくる鳥居にねらいを定め、遠めがねの十字の印が鳥居の頭をとらえた瞬間、その引き金を引く。

 が、その弾を受けたのは鳥居の前に飛び出してきた鳩。時次郎は素早く次の弾を込め、再び鳥居に向かって引き金を引くも、鳥居の周りを囲ってしまった警備の者達に阻まれ、鳥居には当たらない。そして、時次郎が三発目を用意しようと弾をつかんだとき、鳥居は見えない場所まで移動してしまった。もう時次郎にはなすすべがない。つまんでいた弾を放り投げると、放心したように座り込んでしまう。

 時次郎は天平のところから持ってきた火薬を取り出すと、まずは自分の周りに、やがて自分自身にその火薬をまき始める。腕に、髪に、顔に。火薬で真っ黒に染まった顔に、時次郎は紙巻きタバコを一吸い、それを目の前の火薬に投げ込んでしまう。巻き起こる大爆発。

 その音を聞いた、仇吉、藤兵ヱ、天平、とんぼ、へろ松。彼らの顔は暗く、重い。
第13話「終わりに殺陣をどうぞ」

 冒頭、仇吉姉さんは、第1話で元締めを殺した張本人、同じ裏稼業を生業としている曇り一家の元締め、曇りから時次郎の事を聞かれる。時次郎の姿が見えないが、一体どういうことだ、と。曇りは、幕府高官達を狙った狙撃は時次郎だとにらんでいたのだ。そのことをネタに、けじめをつけるか、或いは、手を組むか、と仇吉に迫る曇り。仇吉は、幕府高官ともつながり、金にも汚い曇りのやり方に屈することなく、きっぱりと決別を言い放つ。となると、残るのはけじめ。曇りは仇吉達を殺そうと動き出す。

 最初に狙われたのは藤兵ヱ。いつものように船で仇吉姉さんを迎えに行く途中、次々に襲いかかってくる曇りの手下達に、最初は何とかしのいでいくが、最後は短筒で撃たれやられてしまう。それでも、何とか船を仇吉姉さんの元に送り届ける藤兵ヱ。しかし、彼はその場で息絶えてしまう。

 次に狙われたのはとんぼ。花乃屋で一人まつとんぼの元に、天平さんから頼まれた、一緒に来てくれ、という男がやってくる。とんぼは機転を利かせ、天平ちゃんは今、ここにいます、と答えると、男の気配は消え、しかし、今度は屋根から物音が聞こえ始めた。

 その恐ろしさに震えるとんぼだが、何とか最初の一人を返り討ちにし、外に出ようと玄関に走る。そこで追いつめられ、あわや、という所に仇吉が帰宅、曇りの刺客を倒してしまう。そしてまた、天平とへろ松も曇りの刺客に襲われていた。

 夜中、急に騒ぎ出したへろ松の声に起こされた天平は、小屋の周りに怪しい気配があるのを察する。いち早くへろ松を小屋の外に逃がすと天平は刺客達を返り討ちにするが、その内の一人が投げ込んだ火によって小屋の花火に引火、小屋は大爆発してしまう。それを見て天平の名を叫ぶへろ松。すると、小屋の残骸の中から天平がはい出して来るではないか。

 しかし、全身にやけどをおい、傷だらけになっていた天平の目は、見えなくなっていた。

 へろ松に支えられながらも、曇りの屋敷にたどり着く天平。天平はへろ松をそこで追い返すと、花火を手に曇りの屋敷に単身乗り込む。花火を両手に暴れる天平に、曇りの手下達はなかなか近寄ることが出来ない。見えない目のまま、曇りを求めてさまよう天平。やがてその花火に火がともされ、天平は曇りの手下達と共に爆死してしまう。

 その爆発音を聞いた仇吉。曇りの屋敷に乗り込むと、手下共をあっという間に倒していき、そして、再び曇りと相まみえる。にらみ合う二人。吹き抜ける風を合図に曇りの短筒が火を噴き、仇吉の三味線バチが曇りへと飛ぶ。倒れる曇り。倒れる仇吉。吹き抜ける風が、紙を舞い散らせる。

 立った二人、残ったとんぼとへろ松は小舟の上、静かに川を下っていく。からくり人は、もうどこにも居ない。
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