和風Wizardry純情派

和風Wizardry純情派
2004/06/12 記
2004/08/10 補足追記
 web上にある、はてなダイアリーを使った連載恋愛小説。はてなを使って、というのが面白い。

 ほぼ一日かけて読み切る。Wizardryは、やったこともなければ当然思い入れもなく、せいぜい、『隣り合わせの灰と青春』(未読)と、『ささやき えいしょう いのり ねんじろ!』『はいになりました』位しかイメージが無いのだが、これがまた面白くて。

 まず、現代日本に化け物共が闊歩するダンジョンが出現したとして、そこにどうやって冒険者達を引き入れるか、というアイデアが面白い。モンスターからの略奪行為が、見事に経済活動になっているのだ。これなら確かにダンジョンに潜る奴は出てくると思う。

 そして、そこさえクリアしてしまえば、あとはもうドラマが、ただ、そして静かに積み重ねられていく。ふとしたことで簡単に死んでしまうような状況で、お互いが助け合うような関係ならば、その結束が強まらないわけがないのだ。そんなの、命がかかって無くてもそうだというのに。そして、そこに魅力的な人間達が出てくるのであれば、面白くないわけがない。

 パーティを組む、人が簡単に死ぬ、という状況からか、登場人物は多い。そのうえ普通じゃない人ばかりだ。普通の人は真っ先に死ぬか、ダンジョン自体に近寄らないので当然と言えば当然だが。そう、割と簡単に登場人物たちは死んでいく。著者はそれを、予定して書いていたわけではなく、どうやらダイスをふる、という様な行為で決めていたとのこと。確立を決め、それに対して伏線を書くだけだ、と。

 だからか、妙な緊張感がある。あの人は無事だろうかと気になって、ついつい読み進めてしまう。にもかかわらず、悲惨な雰囲気でもないのは、ダンジョンを出て行くことも可能だと言うこと、そして、毎日ダンジョンに潜っている訳でもないからだろう。さらに、戦闘シーンが薄めで(とはいえ、そこであっさり人は死ぬし、それはそれでショックなのだが)、どちらかというと主人公の日常描写に終始しているからではないだろうか。

 そして、その日常描写は読んでいて楽しい。主人公の戦士という技能についての興味が話題の中心にあるのだが、それが、テクニックの話に終始するのではなく、むしろ人間関係の話として書かれているからだ。勿論、主人公の持つ戦士技能への好奇心、成長の手応え、と言うものも面白いのだが、そこからくる他の戦士達への尊敬の念、鍛冶屋に代表される、生活を支えてくれる人々への感謝が物語世界に奥行きを感じさせてくれる。なにより、そんな生活を日常然としてやっているところがさらに面白いのだ。

 結末も本文と一緒でちょっとあっさりしすぎかな、とは思ったけれど、おめでとう、お幸せにと思えるのは間違いない。
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